うるう秒の見直しはなぜ必要なのでしょうか。地球自転の変化、ITシステムへの影響、UTCと日本標準時の歴史をわかりやすく解説。2027年に予定されるUTCの新しい運用と、いわゆる「うるう時間」の意味を紹介します。

はじめに
「うるう秒がなくなる」という話を聞いたことはありませんか。
一見すると、時計の世界だけの話に思えるかもしれません。しかし実際には、私たちが毎日使っているスマートフォン、コンピューター、通信ネットワーク、金融システムなど、社会のさまざまな仕組みに関係する重要なテーマです。
背景にあるのは、地球の自転が完全に一定ではないという事実です。
現在の世界の標準時は、原子時計を基準とする「協定世界時(UTC)」によって作られています。一方、地球の自転に基づく時刻は「UT1」と呼ばれます。
これまでUTCとUT1の差を0.9秒以内に保つために「うるう秒」が使われてきました。
しかし、2022年の国際的な決定を受け、将来的にはこの厳密な同期方法が見直されることになりました。2026年時点では、2027年5月20日からUTCとUT1の差の許容範囲を最大1時間に拡大する計画が示されています。
この記事では、この変更を便宜上「うるう時間」と呼びながら、地球の自転、ITシステム、日本標準時の歴史まで含めて、その意味をわかりやすく解説します。
※「うるう時間」は、ここでは説明のための呼称です。国際的に新しい制度の正式名称として定着している言葉ではありません。
1. 「うるう時間」とは何か
まず、現在の「うるう秒」について見てみましょう。
私たちが普段使っている時刻は、原子時計を基準にしたUTCをもとにしています。一方、天文学的な意味での1日の長さは、地球の自転によって決まります。
ところが、地球の自転速度は完全には一定ではありません。
そのため、UTCと地球の自転に基づく時刻UT1には少しずつ差が生じます。
これまで国際的には、
|UT1−UTC| < 0.9秒
となるように、必要に応じてUTCへ「うるう秒」を挿入してきました。
うるう秒が入る場合には、通常の
23:59:59 → 00:00:00
という流れの代わりに、
23:59:59 → 23:59:60 → 00:00:00
となります。
つまり「23:59:60」は存在しない時刻なのではなく、うるう秒が挿入されたUTCでは実際に存在する特別な時刻です。
なぜ見直されるのか
問題は、この1秒の調整がコンピューターシステムにとって扱いにくいことです。
そのため2022年の国際度量衡総会(CGPM)では、UTCと地球自転時刻UT1との差について、現在の0.9秒という厳しい上限を将来的に拡大することが決定されました。
2026年のBIPMの資料では、2027年5月20日から許容差を3,600秒、つまり1時間とする計画が示されています。
これによって、UTCと地球自転を毎秒単位で一致させる必要がなくなります。
この記事では、この新しい考え方を分かりやすく「うるう時間」と表現します。
2. 地球の自転は「一定」ではない
この変更を理解するためには、まず地球の自転について知る必要があります。
長期的には自転が遅くなる
地球の自転速度には、長期的な減速傾向があります。
主な原因の一つが、月との間に働く潮汐相互作用です。
月の引力によって海水などが動き、そのエネルギーが散逸することで、地球の自転には長期的なブレーキがかかります。
その結果、長期的な平均としては、1日の長さが100年あたり約2ミリ秒程度伸びるとされています。
ただし、これはあくまで長期的な傾向です。
実際の地球の自転速度は、短期的にはさまざまな要因によって変化しています。
短期的には速くなったり遅くなったりする
地球内部の流体の運動、大気や海洋の動き、地球の核とマントルの相互作用などによって、自転速度は常にわずかに変動しています。
そのため「地球は毎日まったく同じ速度で回転している」というわけではありません。
地球の自転を測定すると、1日の長さはミリ秒単位で変化しています。
氷や水の移動も自転に影響する
近年は、気候変動との関係も注目されています。
氷床や氷河が融解すると、水が海洋へ移動します。また、地下水の汲み上げなどによって地球上の水の分布も変化します。
こうした質量の移動は、地球の慣性モーメントを変化させ、自転速度にも影響を与えます。
つまり地球は、単純な「一定速度で回転する球体」ではありません。
大気、海洋、地球内部、氷、地下水などが複雑に影響し合うことで、その回転速度は常に変化しています。
1日が19時間だった時代も?
地球の歴史をさらにさかのぼると、現在よりも短い1日だった時代があります。
研究によれば、約10億~14億年前の中原生代には、1日の長さが約19時間だった時期が長く続いたと考えられています。
これは、月による潮汐作用など、地球と月の長期的な相互作用を考えるうえでも興味深い研究結果です。
3. なぜ「1秒」の調整がITの問題になるのか
うるう秒が問題になる大きな理由の一つが、コンピューターシステムです。
現代のソフトウェアの多くは、時刻が連続的に進むことを前提として設計されています。
たとえば、システムによっては、
- 時刻が基本的に単調に進む
- 1分は60秒
- 通常の時刻表記には「23:59:60」が現れない
といった前提で処理を行っています。
ところが、うるう秒が挿入されると、
23:59:59 → 23:59:60 → 00:00:00
という特殊な状態が発生します。
この例外処理が十分に考慮されていないソフトウェアでは、予期しない動作が起こる可能性があります。
2012年には実際に障害が発生
うるう秒によるシステム障害は、単なる理論上の問題ではありません。
2012年のうるう秒では、Redditなど複数のインターネットサービスで障害が報告されました。
特定のLinux環境では、高精度タイマーの処理とうるう秒が組み合わさり、CPU使用率が異常に高くなる問題も発生しています。
このように、たった1秒の例外が、大規模なコンピューターシステムに思わぬ影響を及ぼすことがあります。
分散システムでは「時刻」そのものが重要
さらに現代のITシステムでは、1台のコンピューターだけで処理をしているわけではありません。
クラウドサービスやデータベース、通信ネットワークなどでは、多数のコンピューターが連携して動作しています。
そのため、
【▼記事は、下記に続く】
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【▲上記の記事からの続き▼】
「この処理はいつ発生したのか」
「どちらの処理が先だったのか」
といった情報を判断するために、正確なタイムスタンプが重要になります。
高頻度取引や通信、分散データベースなど、正確な時刻やイベント順序を必要とするシステムでは、時刻の不連続やコンピューター間の時刻差が問題になる場合があります。
4. そこで「うるう秒」を見直す
こうした事情から、国際的には「地球の自転と原子時計を毎秒単位で合わせ続ける」という方法そのものを見直す方向に進んでいます。
2022年のCGPMでは、UTCとUT1との差について、現在の0.9秒という上限を将来的に拡大することが決定されました。
2026年時点の計画では、2027年5月20日からその許容範囲を最大3,600秒、つまり1時間へ拡大することが示されています。
重要なのは、「1時間ずれる時計を突然使い始める」という意味ではないことです。
日常生活で使う時計やスマートフォンの表示時刻が、ある日突然1時間変わるわけではありません。
あくまで、
UTCと地球の自転に基づくUT1との間に、これまでより大きな差を許容する
という国際的な時刻体系の変更です。
私たちの生活はどう変わる?
一般の生活者が直接感じる変化は、ほとんどないと考えられます。
時計、カレンダー、電車の時刻表、仕事の開始時刻などが、この変更によって突然変わるわけではありません。
むしろ影響が大きいのは、正確な時刻を扱うコンピューターや通信システムなど、社会の裏側にある技術です。
うるう秒という特殊な「1秒」を扱う必要が減ることで、システムの設計や運用を簡素化しやすくなることが期待されています。
5. 日本標準時はどのように生まれたのか
ここで、日本の時間制度についても見てみましょう。
現在、私たちが使っている日本標準時(JST)は、UTCを基準として**9時間進んだ時刻(UTC+9)**です。
しかし、もちろん最初からこの仕組みだったわけではありません。
明治以前:地域によって時刻が違った
近代的な標準時が導入される以前、日本では地域ごとに太陽の動きを基準にした時刻が使われていました。
太陽が南中する時刻は場所によって異なるため、現在のように全国どこでも同じ時刻を使う仕組みではありませんでした。
たとえば東京と大阪では、太陽の南中時刻に約20分の差があります。
鉄道や電信など、全国規模の交通・通信網が発達すると、地域ごとに異なる時刻を使うことは不便になっていきました。
1886年:東経135度を基準に制定
日本では1886年、東経135度の子午線を基準とする標準時が定められました。
そして1888年1月1日から、この標準時が実際に施行されました。
東経135度を通る代表的な地点が兵庫県明石市であることから、「日本標準時=明石」というイメージが広く知られています。
ただし、標準時そのものは明石市だけの時刻ではなく、東経135度を基準とする日本全国の標準時です。
UTCとの関係
1888年当時、現在のUTCはまだ存在していません。
当時はGMT(グリニッジ標準時)が国際的な基準として使われており、日本標準時はGMTより9時間進んだ時刻として設定されました。
その後、原子時計を利用した高精度な時刻体系が発展し、現在の国際的な基準であるUTCへとつながっていきます。
6. 1972年から現在のUTCへ
現在の世界の標準時を理解するうえで重要なのが、協定世界時(UTC)です。
UTCは、原子時計による非常に安定した時間と、地球の自転に基づく時間との関係を調整しながら運用されています。
現在のUTCの仕組みが運用されるようになったのは1972年です。
日本標準時も現在はUTCを基準として、
JST = UTC + 9時間
という関係で運用されています。
つまり、日本で正午なら、UTCでは午前3時です。
NICTが日本の標準時を作っている
日本標準時を支えているのが、情報通信研究機構(NICT)です。
NICTでは多数の原子時計などを利用して「UTC(NICT)」を生成しています。
UTC(NICT)は、国際的な時刻比較を通じて世界のUTCとの関係を高精度に管理されています。
私たちが普段何気なく見る「日本時間」は、実はこうした非常に高度な時刻計測・比較技術によって支えられているのです。
7. 「うるう時間」で何が変わるのか
ここまでを整理すると、今回のUTC改革のポイントは次のようになります。
これまで
原子時計 → UTC
と、
地球の自転 → UT1
の差を0.9秒以内に保つため、必要に応じてうるう秒を挿入してきました。
これから
UTCとUT1の差について、これまでより大きな範囲を許容することで、うるう秒による頻繁な調整を避ける方向へ進みます。
2027年5月20日からは、UTCとUT1の差の許容範囲を最大1時間とする計画が示されています。
これは「時間が急に1時間ずれる」という話ではありません。
むしろ、人間社会が使う時刻と、地球の自転という自然現象を、どの程度厳密に一致させるべきかを見直すという話です。
おわりに
時間は、私たちにとってあまりにも身近な存在です。
時計を見れば、いつでも同じように「今」が表示されているように感じます。
しかし、その裏側では、
- 地球の自転速度の変化
- 月との潮汐相互作用
- 大気や海洋の動き
- 氷や水の移動
- 原子時計による高精度な時間計測
- 世界中のコンピューターや通信システム
といった、さまざまな要素が関係しています。
うるう秒の見直しは、単に「1秒をなくす」という話ではありません。
それは、自然現象としての時間と、人間が社会のために作り上げた時間体系を、これからどう折り合いをつけていくのかという問題です。
2027年に予定されるUTCの新しい運用が始まれば、私たちが普段使う時計はほとんど変わらないかもしれません。
それでも、コンピューターや通信ネットワークの奥深くでは、時間の扱い方が少しずつ変わっていくことになります。
普段は意識することのない「1秒」。
その1秒をめぐって、地球の自転と最先端のコンピューター技術がつながっていると考えると、時間というものが少し違って見えてくるのではないでしょうか。