参政党さや氏が主張する「核武装は安上がり」は本当なのか?元航空幕僚長・田母神俊雄氏の発言や国連憲章の敵国条項も踏まえ、日本の核保有の現実性をコスト・安全保障・国際法の観点から徹底検証します。

目次
核武装は本当に「安上がり」なのか?──さや氏発言と田母神氏の主張、そして敵国条項の影
2025年7月の参院選東京選挙区で初当選した参政党のさや氏(塩入清香氏)が、ネット番組で「核武装が最も安上がりであり、最も安全を強化する策の一つだ」と発言し、大きな議論を巻き起こしました。この「核安上がり論」は、元航空幕僚長の田母神俊雄氏がさや氏に教えたと本人が語っており、ネット上でも賛否が広がっています。
しかし、果たして核武装は本当に「安上がり」なのでしょうか? この記事では、コスト・安全保障・国際関係・国連憲章の敵国条項の観点から、この主張を検証します。
北朝鮮モデルは「安上がり」の証明か?
さや氏の発言には「北朝鮮ですら核を持てるのだから、日本も安上がりに核武装できるのでは?」という見方もあります。しかし、北朝鮮の核開発は極端な経済制裁や国際的孤立を伴うものであり、体制維持を最優先する特殊な政治環境の中で進められたものです。
日本のように国際的な経済・外交ネットワークに深く組み込まれた国が同様の道を選べば、制裁による食料・エネルギー供給の断絶、通貨の信用低下、日米安保の後退など、想像を超える損失が生じる可能性があります。
また、北朝鮮の核兵器は「抑止力」としての信頼性に疑問が残る部分もあり、技術的な精度や運搬手段の整備が不十分であると指摘されています。つまり、北朝鮮の核保有は「安上がり」ではなく、「高リスク・高代償」の選択だったと言えるでしょう。
💰 核武装のコスト構造
もし日本が核兵器を保有する場合、原子力潜水艦は国土の狭い日本にとって有効な手段となります。海中に潜航させることで居場所を秘匿でき、安全保障上の抑止力として機能します。また、定期的なメンテナンスや運用の継続性を考慮すると、最低でも4隻は必要とされます。
- 初期費用:核弾頭の開発には約20兆円、原子力潜水艦や長距離ミサイルなどの運搬手段を含めると30兆円以上の試算もあります。
- 維持費:年間で5~7兆円。これは日本の防衛費の半分以上に相当します。
- 原潜の必要数:最低でも4隻が必要とされ、1隻あたり5000~6000億円の建造費がかかります。
- 通常兵器との両立:核だけに予算を割くと、通常兵器の維持が難しくなります。イギリスは核潜水艦に予算を集中した結果、護衛艦の数が日本の半分以下になっています。
🌐 国際的リスクと法的障壁
- NPT(核拡散防止条約)違反:日本が核を持てば、国際的な制裁や外交的孤立の可能性が高まります。
- 国内法の改正:非核三原則や原子力基本法の改正が必要で、政治的コストも莫大です。
- 世論の壁:唯一の被爆国である日本では、核保有に対する反発も根強く、国民的合意形成は容易ではありません。
🧭 敵国条項の影──国連憲章の残された亡霊?
国連憲章には、第二次世界大戦中に連合国の「敵国」であった国に対する制裁を認める「敵国条項」(第53条・第107条)が今も残っています。日本はこの条項の対象国に含まれており、理論上は安全保障理事会の承認なしに武力制裁を受ける可能性があるとされています。
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しかし、1995年の国連総会ではこの条項が「時代遅れ(obsolete)」とされ、事実上死文化していると確認されました。これまで一度も実際に使われたことはなく、現代の国際法の原則(主権平等・武力不行使)に反するため、この条項を根拠に攻撃される可能性は極めて低いと考えられています。
とはいえ、もし日本が核武装を進めれば、この条項が象徴的に再び注目される可能性はあり、国際的な緊張を高める要因にはなり得ます。
🛠 技術的・地理的課題
- 核実験の場所:日本国内での核実験は地震誘発の懸念もあり、現実的ではありません。
- 配備の問題:原潜の基地設置や核兵器の保管場所に対する住民の反発も予想されます。
- 食料・エネルギー依存:制裁を受けた場合、日本の食料自給率やエネルギー供給に深刻な影響が出る可能性があります。
スーパーコンピューターによる核シミュレーション──抑止力になるのか?
日本は「富岳」など世界トップレベルのスーパーコンピューターを保有しており、核爆発の爆縮挙動や衝撃波の解析など、核兵器の設計に必要な物理シミュレーションが可能です。
この技術力により、実際の核実験を行わずとも「もし核兵器を持つなら、どのような設計が最適か?」というデータを蓄積することができます。これは、核保有国が採用している「ストックパイル・スチュワードシップ計画(SSP)」と同様のアプローチであり、潜在的な抑止力として機能する可能性があります。
ただし、スーパーコンピューターによるシミュレーションだけでは、実戦配備可能な核兵器の信頼性を完全に保証することはできません。抑止力としての効果を持たせるには、実際の配備体制や運搬手段、指揮・通信システム(NC3)の整備が不可欠です。
🔍結論:核武装は「安上がり」ではない──それでも議論は必要だ
さや氏や田母神氏の主張は、抑止力としての核の破壊力に着目したものですが、現実には莫大な費用・国際的リスク・技術的課題が伴います。「核があるから通常兵器はいらない」という発想も、現代の安全保障では成立しません。
さらに、国連憲章に残る敵国条項の存在は、象徴的とはいえ、核武装によって国際社会との信頼関係を損なうリスクを示しています。
日本のような国土が狭く、資源に乏しい国が核武装に踏み切ることは、コストパフォーマンスの面でも、国民生活の面でも極めて非現実的だと言えるでしょう。
とはいえ、核について国民が議論すること自体は、決して悪いことではありません。むしろ、こうした議論を通じてこそ、私たちは安全保障の本質や国際社会との関係、そして平和の意味を深く理解できるのです。
議論は、意見の違いを乗り越えて、共通の未来を築くための第一歩。タブー視するのではなく、冷静で理性的な対話を重ねることで、より健全で持続可能な安全保障政策が生まれるはずです。