前原 巧山まえばら こうざんってご存じですか？

前原 巧山まえばら こうざんは、江戸時代末期の文化9年9月4日（1812年10月8日）から 明治25年（1892年）9月18日）に活躍した日本の技術者です。

巧山こうざんは号で、名は喜市きいち、元の名を嘉蔵かぞうと言います。

そして日本で初めて純国産の黒船（蒸気船）を作った事で知られる人です。

薩摩（７０万石）と肥前（４０万石）も当時、蒸気船を作っていましたが、この2藩は外国人を顧問に雇って蒸気船を完成させていました。

来歴
1812年（文化9年）宇和島藩領八幡浜新築地に生まれる。
1836年（天保6年）大坂の目貫師谷元貞に弟子入り
1840年（天保10年）宇和島城下で細工物商売を始める。
1854年（嘉永7年）宇和島藩重役より蒸気船の機関の製造を命じられる。長崎留学（第1～2回）
1854年（安政元年）御船手方御雇、第3回目長崎留学（村田蔵六らに同道）。前原喜一改名。
1857年（安政4年）薩摩藩にて修行する。
1858年（安政5年）蒸気機関実験成功
1858年（安政6年）蒸気船完成、宇和島藩譜代となる。
1870年（明治3年）旧蒸気船造り替え。
1871年（明治4年）喜一隠居。
1872年（明治5年）息、喜作と共に大阪移転。
1873年（明治6年）大坂にて「前原一代記咄し」を記す。同年宇和島帰国
1892年（明治25年）宇和島、野川にて死去　宇和島市西江寺に埋葬。戒名巧山精理居士

宇和島８代藩主伊達宗城むねなりが、参勤交代で江戸から宇和島へ帰るときに品川沖で黒船を見る事になります。

その蒸気船を見た事で　好奇心旺盛な宗城むねなりは、宇和島に帰るなり家臣にうちの藩でも蒸気船を作ろうと言い出し家臣を驚かせます。

そして８代藩主伊達宗城むねなりは、家臣に誰かうちの藩で蒸気船を作れる者を探してこいと命を下します。

宗城むねなりも無茶振りしますね！

この時代、宇和島藩で蒸気船を見た者は誰もいないんですからね！

そうした中で宇和島藩内で、細工物などをしながら食事もままならない程にギリギリの収入でなんとか生計を立てていた嘉蔵かぞうという者がいました。

かねてから嘉蔵かぞうと懇意にしていた本町の豪商清家市郎左衛門の屋敷で、藩の家老桑折左衛門より、火輪船（蒸気船）程ではなくても、櫓をこぐ現在の舟より、人力を減らして速く進める船の工夫は無いものかと相談を受けました。

清家市郎左衛門は、嘉蔵かぞうが器用であるので、彼ならばあるいは、と推挙すいきょしました。

その話を嘉蔵かぞうに伝えると　それを聞かされた嘉蔵かぞうは驚きます。

「もとよりそのような大それた物は出来ないので他の方にお願いします」と嘉蔵かぞうはその日はその話を断て帰ります。

その半月後ほど経ってから、「漁に使う網曳きのロクロ」を思い出し、これを工夫して船の動力にできないかと嘉蔵かぞうは考えます。

それ以来一室に閉じこもり不眠不休で2日間思案し、さらに5日かかりで横一尺、長さ二尺五寸、深さ七、八寸の箱車に四輪を付け、心棒を一回転すると車輪が三回転するカラクリを作り上げ、清家市郎左衛門に見せに行きます。

その出来栄えに驚いた市郎左衛門は、その箱車を町年寄から町奉行を通じ家老桑折様に差し出さし、桑折はそれを火輪船の製造を希望する藩主伊達宗城むねなりに披露しました。

そして嘉蔵かぞうは藩の命を受けて造船所でそのカラクリを船に応用する工事にかかることになります。

陸では容易に進んだ箱車の仕掛けも、海では海水の抵抗で思うように推進しなくて失敗したのですが、藩主自ら操作し大変喜び老職たちも大いに感心したという事でした。

なんと藩主伊達宗城むねなりは、嘉蔵かぞうと一緒にいたんですね！

そして宗城むねなりは、嘉蔵かぞうを士分（御雇、二人扶持五俵）に取り立てます。

役所から袴に大小を差し、裡町（現中央町付近）の自宅に帰った嘉蔵かぞうを見て、近隣の住民は気が狂ったのかと思ったと言う事です。

そりゃぁ　そうでしょうね！

朝、町人の恰好で出かけて　帰ってきたらお侍の出で立ちで帰って来たのですからね。

武士に取り立てられた嘉蔵かぞうは、実際に黒船がみたいということを申し出ます。

そりゃあ　そうですよね。

見た事もないモノを作れと言っても作れませんよね！

するとそれが、許可されて嘉蔵かぞうは、長崎に３回留学に行きます。

留学1回目では、長崎の役人で高島秋帆門下の砲術家山本物次郎と出会います。

2回目の留学では、山本に同道し、出島で蒸気船や機関の船体取り付けなどを図面に写します。そして山本より幕府召抱えの話がでます。

3回目の留学では、長崎奉行より、村田蔵六（後の大村益次郎）と共に蒸気船修行を許されます。

なんと１年の間に３回も長崎へ留学へ行ってるんですね。

竹内右吉郞宅で、蒸気機関を図面に取り竹内作、シリンダー模型の誤りを指摘します。

ジョン万次郎が帰国の折に使用した米国製の小船を、江戸へ輸送のため積み込まれた船中で図面に写します。

宿舎では、低い身分のため下女と同列で食事させられ、時間に遅れると食事を与えられないなど不遇に甘んじる事もあったという事です。

安政3年（1856年）から本格的に製造に着手したが、度重なる試作、試運転を重ねてもなかなか満足する蒸気船の完成には至らなかったようです。

鋳物の湯釜では、高圧になると「巣」から蒸気が噴出し、銅を使用することを進言しても、古来からの鋳物職人は納得せず喜市に非難が集中します。

「御船手方」ではなく「おつぶし方」と言われたのもこの頃だということです。

もし完成したのなら、自分の耳や鼻を切っても良いと悪態を突く者まで出たようです。

大阪から銅板を取り寄せ、苦労の末蒸気機関の試運転には成功しましたが、船としては思ったほど進まず失敗。

安政4年（1857年）に研究、修行のため薩摩に出発し薩摩藩の蒸気船に同乗したり、島津斉彬の側近肥後七左衛門に学んだりましました。

翌年長崎を経由して帰国します。

長崎で楠本イネに会う事になったという事です。

帰国後、蒸気船の試運転に成功します。

９代藩主・伊達宗徳むねえを乗船させ、九島沖を航行します。

その後吉田、戸島、八幡浜、三浦などの航行にも成功します。

翌年は江戸より帰国途中の藩主を三崎まで迎えに行きます。

この功績により喜市は譜代（三人扶持九俵）となります。

かつて司馬遼太郎は、1858年（安政6年）の時代に　宇和島藩（中規模藩にすぎなかった）で蒸気機関船を作ったのは、現在の宇和島市で人工衛星を打上げたのに匹敵する」と述べています。

そしてこの前原 巧山まえばら こうざんを主役にNHKの大河ドラマでやったら面白いのになぁと思う今日この頃です。

たった10万石でしかない宇和島藩が、日本で初めて純国産の蒸気機関船を作ったという話は、夢と希望のあるドラマになると思います。
ドラマにするなら大筋は、ノンフィクションで　細部は、フィクションで作って昔のNHKのプロジェクトＸ的要素も入れる事もできると思うので面白いドラマがつくれると思います。